会田誠 (Aida Makoto)
1965年新潟県生まれ。
現代美術家。
会田誠の作品で最初に目にしたの が、雑誌に掲載されていた1枚目の 「巨大フジ隊員 VS キングギドラ "The Giant Member Fuji Versus King Gidora"」 で、現代美術に詳しいというのでもなかったのだが、こういう絵を描く人が出てきたんだと驚いたのを憶えている。
ただ、幼少期に TV の再放送で 『ウルトラマン』 は何度も見ているというのに、肝心のウルトラ警備隊のフジ隊員が巨大化するエピソードがまったく記憶に残っていなかったため、そのエピソードが記憶に残っている人が受けたであろう感銘を受け損なっている。
ということもあり、実際には 「巨大フジ隊員 VS キングギドラ」 よりも、その後に見た一連の 「犬」 ものの方がボクの中で強く印象に残っている。
こ れはボクが永井豪 (Nagai Gou、Nagai Go) 好きであることが大きく関係しているのだけど、「犬」 シリーズの 「犬(雪月花のうち“雪”)」 を見た瞬間、永井豪の 『バイオレンスジャック "Violence Jack"』 に再登場させられた、『デビルマン "Devilman"』 の主要キャラだった牧村美樹と飛鳥了の人犬と化した無残な姿にゾクゾクした時のことを思い出したのだ。
所帯を持つ以前/以後で永井豪の悪意の発露のレベルが大きく違っているということがファンの間ではよく言われ、 『バイオレンスジャック』 は勿論ガンガンに悪意を放っていた所帯を持つ以前の作品である。
当時リアルタイムで作品を読み、永井豪のあの悪意の爆発に身震いした人って多かったのではないかと思うし、おそらく、少年・会田誠もその一人だったに違いない。
こ の会田誠って人は、少年時代に週刊少年マガジンや月刊少年マガジンに連載されていた 『バイオレンスジャック』 を読んでかなりショックを受けたんだろうな、自分が読んだのは大学に入ってからのことで、それでもかなり驚いたのだけど、少年の頃、突然永井豪の悪意に触 れたショックは僕の場合と比べるまでもなく大きかったんじゃないだろうか、で、その牧村美樹の記憶をレファランスとして新たな無惨絵・残酷絵を描いたんだ な、っていうのが 「犬(雪月花のうち“雪”)」 を最初に見た時の印象で、サブカルを卒業しないままオッサンになってしまったので、今も作品を見た時と印象は変わらない (まあ、この文章はオッサンになった今、当時のことを思い出しつつ書いているので、当時そう思ったと思いつつ書いたとしても実際は今の感想でしかないって 可能性は拭い切れないのだけどね)。
まあとにかく、会田誠は一連の 「犬」 もので永井豪が作品に込めていた悪意というものを反復することになったのだ。
椹木野衣は 『「爆心地」の芸術』 の最後に収められた 《「爆心地」の芸術―「ゼロ」から「ゼロ」へ》 の終わりの方で 「巨大フジ隊員 VS キングギドラ」 に触れている。
少し長くなるが引用してみよう。
こ のように、戦後サブカルチャーの起源にあるのは、端的に 「敗戦」 の記憶であり、「アジア太平洋戦争」 という暴力にほかならない。したがって、一度 「戦争美術」 ないしは 「現代美術」 という枠組みを判断停止してしまえば、戦中期の 「戦争画」 は、敗戦後も、けっして中断されたわけでも忘れ去られたわけでもない。ある面からいえば、「戦争画」 は、小松崎や成田といった 「境界線上の美術」 を通じて、それが漫画やアニメといったサブカルチャーであることによって批判から守られ、現在に至るまでそのまま維持されていたといってしまっても過言で はないだろう。そしてそれは、主に一九六〇年代生まれの作家たちに、「美術」 というねじれた回路を通じて受け継がれ、村上の 〈タイムボカン〉 (一九九三) や会田の 〈巨大フジ隊員 VS キングギドラ〉 (一九九三) へとかたちを変え、まさに 「いま・ここ」 で反復され続けている。その意味でも 「戦争画」 は、近代日本における美術研究の肝要であることはもちろん、漫画・アニメ研究者にとっても、最大の 「パンドラの箱」 なのだ。
以上は、戦後忌まれ人前から隠されていたはずの 「戦争画」 がどう生きながらえたのかということについてまとめ、それが更に1965年生まれの会田誠にどう受け継がれたのか簡単に触れた部分になる (引用部に登場する小松崎とはもちろんボックスアート界の巨匠小松崎茂のことで、成田はウルトラシリーズの怪獣デザインなどで知られる成田亨のこと)。
「巨 大フジ隊員 VS キングギドラ」 はそういった緊張を孕んだ 「戦争画」 というモチーフが少年時代に脳裏に焼き付けた 『ウルトラマン』 のウルトラ警備隊のフジ隊員が巨大化したエピソードを通して現れる一方で、葛飾北斎のエロティックな木版画の傑作の一つとして知られる 『蛸と海女』 がモチーフとして用いられている。
だから、「巨大フジ隊員 VS キングギドラ」 は、戦争画でありつつ、(木版画というよりも) 無惨絵・残酷絵でもあるという作品となっているといえなくもない。
だけど、アセテート・フィルムにアクリル絵具でセル画調のマットなタッチで無機質に描き上げられていることから、戦争画に付き物の高揚感や無惨絵・残酷絵に付き物の情念というものが一見剥ぎ取られているかのように見えるところがクセモノなんじゃないだろうか。
会田誠は 「巨大フジ隊員 VS キングギドラ」 を描く前年に 「地球防衛少女イコちゃん VS キングギドラ "The member of the giant Ico Chan vs. King Gidora"」 という作品を描いているということは、会田誠ファンには周知の事実かもしれない。
しかしご存じない方もいることだろうし、まずは 『地球防衛少女イコちゃん』 とは何ぞやというところから説明していくことにしよう。
『地 球防衛少女イコちゃん』 というパロディめいた名前は架空の作品ではなく、1987年に河崎実監督のオリジナルビデオ作品で (この作品自体が特撮モノのパロディではあるのだけど)、主演のイコちゃんこと河井イコを磯崎亜紀子が演じている。ちなみに第2作目も1988年に 『地球防衛少女イコちゃん2 ルンナの秘密』 というタイトルで制作され、こちらは増田未亜演じる菅河イコの2代目イコちゃんへと主役が交代している。
ちなみに、サブカルチャー系のライターとして有名な川勝正幸は 『地球防衛少女イコちゃん』 にチョイ役で出演し、『ポップ中毒者の手記』 でそのことに触れた件があるので、興味のある方は手に取って確認してみるといいだろう。
さて、その 「地球防衛少女イコちゃん VS キングギドラ」 だが、上にポストした作品を見れば分かる通り 「巨 大フジ隊員 VS キングギドラ」 と構図は全く同じである。
違うところを具体的に挙げるとしたら、キャラクターの設定上からコスチュームが違っているところ、水彩絵具とアクリル絵具という画材の違い、そして 「地球防衛少女イコちゃん VS キングギドラ」 では希薄だった陰影が 「巨大フジ隊員 VS キングギドラ」 ではセル画的陰影としてはっきり付けられてる点などがあるだろう (3点目の陰影についてはポストした画像で見る限り 「地球防衛少女イコちゃん VS キングギドラ」 の方は希薄そう見えるが、実物にははっきりとした陰影があるのかもしない)。
また、『地球防衛少女イコちゃん』 でイコちゃんを演じた磯崎亜紀子が当時まだ14歳の少女であったのに対し 『ウルトラマン』 でフジ隊員を演じた桜井浩子は当時20歳の女性だったという、演者の実年齢の違いというものがあるのだが、それを作品から読み取ることは不可能で、いや、「地球防衛少女イコちゃん VS キングギドラ」 のイコちゃん方はともかく、 「巨大フジ隊員 VS キングギドラ」 のフジ隊員の方はまるで女子高生の様な顔立ちに描かれており、少女化され、年齢差というものはむしろ逆にその差が無効化されている。
イコちゃんと少女化されたフジ隊員は共に虚ろな顔をして横たわっているのだけど、 アセテート・フィルムにアクリル絵具で描かれたフジ隊員の方がその虚ろさがより際立っており、キャラクターとしてだけでなく、作品 「巨大フジ隊員 VS キングギドラ」 としてみた場合もツルツルとしたプラスティックな虚無のようなものが描かれた時代の雰囲気と恐ろしいくらいにシンクロしているのだ。
会田誠の作品から現代美術史的に作品を選び出すとしたら 「あぜ道」 や 「紐育空爆之図」 などになるのだろうが、サブカル野郎的な視点からすると 「巨大フジ隊員 VS キングギドラ」 や 「犬」 シリーズの方が美味しく鑑賞できる作品であり、フェティッシュを刺激してくれるありがたい作品ということになるだろう。
以上が、アートブログ的なものをやっているクセにアートに全く詳しくなく、ともすればサブカル視点で語ってしまう者の見た会田誠の作品への感想である。
ポストしたのは、
"巨大フジ隊員 VS キングギドラ (The Giant Member Fuji Versus King Gidora)" (1993)
"地球防衛少女イコちゃん VS キングギドラ (The member of the giant Ico Chan vs. King Gidora)" (1992)
"犬(雪月花のうち“雪”)" (1998)
"犬(雪月花のうち“月”)" (1996)
"大山椒魚" (2003)
の5点。
MIZUMA ART GALLERY : 会田誠 / Makoto Aida
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TS65 : 会田誠 - Tokyo Source
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