Anna Gaskell (アンナ・ギャスケル、アンナ・ガスケル)
1969年にアメリカ合衆国中西部にあるアイオワ州 (Iowa) 中央部の都市デモイン (Des Moines) 生まれた。
ニューヨーク在住のフォトグラファ。
アンナ・ギャスケルはこれまでに幾つかのシリーズを発表しているが、今回チョイスしたのは "Wonder" というシリーズ。
このシリーズは1996年から1997年頃に撮影されたもの (だと思うが、そうじゃないものもあるかもしれない) なので、今から10年も前に制作されたシリーズということになるんだけど、その魅力にはいささかの翳りも見られない。素晴らしい。
アンナ・ギャスケルもヘレン・ファン・ミーネ (Helen van Meene) と同じく『STUDIO VOICE』 誌の2006年2月号 「特集 写真の基礎知識 Photography Literacy」 の 「GIRLS FANTASY」 という項目で取り上げられていて、富田秋子と日高優は次のような会話からこのテーマに入って行く。
富 "少女期の葛藤" というのも、古くから存在する写真のテーマの一つですよね。男性には理解し難いのかもしれませんが、これにはまず、女性というイメージが決して女性自身の手によって創り上げられてきたものではないという事実が深く関係していて、さらにそこへ 「女とはこうあるべきだ」 という一般に流布した女性像が、教育や刷り込みによって成長過程の少女の中に内面化されていく、という二重の問題が絡み合っていると思うんです。
日 少女というものは、ただ純粋無垢なだけの存在ではなくて、実は内面にグロテスクな欲求や自意識を抱えている。こうした問題意識を持った写真行為が注目を浴びる契機として思い浮かぶのは、やはりシンディ・シャーマンですよね。
- 『STUDIO VOICE』 2006年2月号 より
この後シンディ・シャーマン (Cindy Sherman) の活動について一通り言及すると、その先駆者として知られることになった写真家の一人として1930年代にフランスでシュルレアリストとして活動していたクロード・カーアン (Claude Cahun) を取り上げ、そこから一気に現在の若手写真家へと飛ぶ。
そこで名前が挙がったのがアンナ・ギャスケルとヘレン・ファン・ミーネの二人。
ヘレン・ファン・ミーネについては既に該当のエントリで引用済みなので、ギャスケルに言及した部分のみ引用してみよう。
富 (・・・・・・) 例えばアンナ・ギャスケルなどは、モデルに衣装を着せ、あるシチュエーションを演じさせることで、少女の中のグロテスクな部分や凶暴性の上に成立する美を写し取ろうとしている (・・・・・・)
- 『STUDIO VOICE』 2006年2月号 より
シンディ・シャーマンはニューヨークから24kmほどの距離にあるニュージャージー州のグレン・リッジ (Glen Ridge) という町で生まれ、3歳の時にロングアイランド (Long Island) のノースショア (North Shore) にあるハンティントン (Huntington) に移り住み、そこで育った。
日がな一日TVに噛り付いているような少女で、TVを見ながら印象に残った映像のイメージをスケッチに何枚も描き続けていたそうで、アーティストになってから、この時代にここで生まれ育ったからこそこの表現スタイルで、女性だからこそ実体験をベースにするような作品を制作しているのだと発言している。
高校時代にアートに夢中になり、大学では美術を専攻し、ニューヨーク郊外の生活から憧れていた中心地へ生活の場を移すも、街の空気に馴染めず半引きこもりとなってしまったシャーマンは、ある日、知り合いのアーティストの家に招待された。
そこには沢山のポルノ雑誌があり、それを手にしたシャーマンは、扇動的で攻撃的な女性たちの姿とは裏腹に悲しげな表情をしていることに惹かれ、そこに都市生活に馴染めずナーヴァスになっている自分と重なるものがあると感じ、それを元にした映画のスチール写真を模したシリーズを制作 (伊藤俊治の 『裸体の森へ』 などを参考にシャーマンの経歴をまとめたのだけど、この部分のまとめ方は単純化し過ぎで、一面的になってしまったかもしれない)。
シャーマンのその擬似スチール写真シリーズは、後に 「セットアップ」 と呼ばれるスタイルへと発展して行くことになり (という認識であっているのだろうか?)、フィリップ・ロルカ・ディコルシア (Philip-Lorca Dicorcia) やグレゴリー・クリュードソン (Gregory Crewdson) らがその分野で知られることになる。
「モデルに衣装を着せ、あるシチュエーションを演じさせることで、少女の中のグロテスクな部分や凶暴性の上に成立する美を写し取ろうとしている」 というアンナ・ギャスケルもその流れの中で作品を制作しているといってよく、シンディ・シャーマンからの影響は "少女期の葛藤" というテーマに止まっておらず、そのスタイルにも及んでいることが分かるだろう。
シャーマンとギャスケルの違いはというと、例えば、シャーマンが作品の舞台を都市に設定しているのに対し、ギャスケルは田舎の野原や雑木林、古びた (ゴシックテイストの?) 建物などが舞台として選ばれているという点。
また、ギャスケルの写真に登場する少女たちの清楚さを強調している服装が現代的とはいえず、こういってよければ妙に古臭く、時代設定がよく分からないという点も、大都市のモダンライフにおける少女や女性という存在に扮したシャーマン自身の姿と大きく違っている。
作品の時代設定や舞台背景がシャーマンのそれに比べ抽象的なところがギャスケルの特徴といえるかもしれない。
ヘレン・ファン・ミーネについても、どこか抽象的なところがあるような気がすると述べたが、ギャスケルの写真の抽象性はそれとはまた別のもので、設定上での抽象性ということなので語りやすい。
とはいえ、ギャスケルはコンセプトを固めるのに時間を掛けるのか、あるいは公開を制限しているのどうかは知らないが、ネットで見ることの出来る作品やシリーズがそう多くなく、飢餓感が募る。
"Wonder" シリーズから次の5点をポスト。
"Untitled #?" (2001)
"Untitled #5" (1996)
"Untitled #2" (1996)
"Untitled #15" (1997)
"Untitled #6" (1996)
ANNA GASKELL
Guggenheim Museum
Postmedia.net
artnet
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