Friday, May 26, 2006

AES & AES+F GROUP - The King of the Forest - le roi des aulnes -





AES & AES+F GROUP ()
Tatiana Arzamasova、Lev Evzovich、Evgeny Svyatsky、そして Vladimir Fridkes の四人から成るロシアのアートグループ (お分かりだと思うが、グループ名はアーティストのラストネームの頭文字をつなげたもの)。
写真、映像、彫刻、ミクストメディアの分野で活動している。

ヨーロッパには深い森に住む王様が美しい子供たちを攫って城の中に監禁してしまうという古くから伝わる恐ろしい伝承があり、この伝承の王様は実在した人物がモデルであるといわれている。英仏百年戦争でジャンヌ・ダルクと共に戦ったジル・ド・レイ (Gilles de Rais) がその人で、数百人にも上る幼い子供たちを拉致し虐殺したと云われている。ジル・ド・レイのこの禍々しい所業は民間伝承となり、シャルル・ペロー (Charles Perrault) の "La Barbe Bleue (青髭)" をはじめ、いくつもの物語が紡がれている。

そのひとつがミシェル・トゥルニエ (Michel Tornier) が1970年に発表したした小説 『魔王 "Le Roi des aulnes"』。
『青髭』の伝承とゲーテの詩 『魔王 (Der Erlkönig)』 などを下敷きとした幻想的な物語で、第二次世界大戦直前のフランスから物語は始まる。
主人公は自動車修理工場を営んでいるアベル・ティフォージュという孤独癖のある大男で、顧客の女との情事、寄宿生時代に主人公の導き手となった同級生のこと、散歩中に聴いた子供の声に陶酔を覚えフィールド・レコーティングを始めたこと、そのフィールド・レコーディングの最中に見かけた少女との触れ合い、罠と裏切り、逮捕、そして第二次世界大戦の始まり、というところまでが主人公視点の手記形式で現在と過去を行きつ戻りつしながら語られていく、というのが第一部。

この第一部での主人公アベル・ティフォージュの語り口はどこかスティーヴ・エリクソン (Steve Erickson) の 『黒い時計の旅 (Tours of the Black Clock)』 の主人公バニング・ジェーンライトの語り口を思わせるところがある。
語り口の類似といってもフランス語で書かれた小説と英語で書かれた小説を日本語に翻訳されたもので読んでいるのだから、単なる印象に過ぎないのだが、エリクソンは愛読書の一冊としてこの 『魔王』 を挙げていたので、影響を受けた面があるのかもしれないと考えることぐらいは許されるだろう。
語り口の類似という印象以外の類似といえば、人物造形で、アベル・ティフォージュもバニング・ジェーンライトも大男であるというところと、孤独を抱えているというところにも類似を見出せる (性格は、ティフォージュはその歪な大きな体の中に暴力を溜め込むタイプであるのに対し、ジェーンライトは全身からその力を発散させていて常に暴力のにおいが付き纏うタイプと違っているのだけど)。
また、ナチス・ドイツが物語に絡んでくるところを類似点として挙げることもでき、『黒い時計の旅』 をナチス・ドイツが崩壊しなかった所謂平行世界でヒトラーのために長年ポルノグラフィを書き続けた男の物語と要約することができるとすると、『魔王』 はナチス・ドイツが崩壊が迎える中ヒトラーのために子供を誘拐し続けた男の物語と要約することができるかもしれない (『魔王』 をそう要約するとかなり語弊が生じるので、仮に、無理やり要約するとということになると急いで言い訳を付け加えておく)。

幾分脱線しつつこのエントリのテーマに戻ってきたところで、『魔王』 の内容をこのエントリに関わる形で要約しておきたい。
第一部はすでにまとめたのでその続きから。

第二部では、戦場に駆り出されたアベル・ティフォージュが鳩の飼育係となり、その後捕虜になってドイツに連行されるまでが語られ、第三部では、強制労働のコミュニティの中で一定の地位を確保するまでになったティフォージュがドイツの地方で自然に触れ解放感を味わいかつて学友が語ったカナダという見知らぬ土地へ抱いたイメージが投影できる丸太小屋を見付け「カナダ」と呼ぶ自分だけの隠れ家にし、そこに餌の無心に現れる盲目の鹿と交流する様が語られる。
第四部では、東プロシアのロミンテン禁猟区で森林監督主任の助手となったティフォージュが、働く中で国家元帥のヘルマン・ゲーリングと出会い気に入られ下僕となり、禁漁区内で死んだ鹿の角を蒐集する仕事をこなす、といった日々がまず語られる。
そんなある日、森林監督主任から一頭の馬を譲り受け、この馬を、朝日の逆光を浴びるとその漆黒の毛が青みがかった織物の様にみえることからティフォージュは 「青ひげ」 と名を付けた。
仕事で訪れた旅先からの帰りにカルテンボルン城塞を見学し感銘を受け、帰り着いたロミンテンで森林監督主任にそのことを伝えた。
館内を歩いていたティフォージュは鳩の飼育場のようなさえずりと甘い香りに誘われて覘いた一室で真裸の少女たちの集団を目撃。
ティフォージュがその光景を覗き見て陶酔しているところを女性管理官に見咎められ、話をしている中で、毎年ヒトラーの誕生日に十歳を迎えた五十万の少女と五十万の少年が供物として捧げられていることを知り、まるで鬼ではないかと慄く。
そういった日々の中、戦況は日に日にドイツに不利なものになりつつあり、ロミンテンにとどまることが許されなかったティフォージュは、願い出てカルテンボルン城塞のナボラへの転任を希望したのだった。
第五部ではそのナボラでの日々が語られ、あることをきっかけに人員減少に伴う生徒募集と称した 「子供狩り」 をまかされたティフォージュが使命感に燃えことにあたるも、最初は問題なく集めることができた子供たちも、途中から妨害に合うようになり、遂に命を狙われ、

カルテンボルンの鬼に注意!
鬼は子供に飢えている。われわれの土地を走りまわっては子供を盗む。子供を持つあなたがたはつねに鬼に注意せよ。鬼はいつも子供に目をつけている!子どもたちだけで遠くにやってはならない。黒い猟犬を連れ、黒い馬に跨った巨人を見たら、逃げて隠れるよう子供たちに教えよ。彼があなた方のところへきたら、脅迫に抵抗し、約束に耳をふさげ。つぎのたしかな事実があなたがた母親としての態度の手引きとなるはずだ。もしも鬼があなたの子供をさらっていけば、あなたは永遠に子供と再会できないだろう!

というビラをまかれるまでに至り、ティフォージュは近隣の子供を持つ親たちにとっては鬼の様な、「魔王」の様な存在となってしまう。
物語を〆る第六部は 『魔王』 を読む上では重要なのだが、このエントリの内容とのかかわりは薄いので省略 (そこに至るまでの伏線などを省略しているのでまとめるのが難しい。この雑なまとめではこの小説の持つ幻想性などが全く伝わらない、というのが自分でもよく分かるので非常にもどかしいのだが、それでももし興味を持たれた方がいたら、『魔王』 を手に取って読んで頂きたい。自分の手元にあるのは昔古本屋でたまたま購入出来た1972年の出版の二見書房版と古く、1990年代までは入手が難しかったが、2001年にみすず書房から再刊されて今は容易に入手できるので、是非)。


と、前置きが長くなってしまったが、今回ポストしたイメージは、AES+F GROUP が2001年から2003年にかけ3つの場所で撮影したプロジェクト "The King of the Forest" の一番最初のシリーズ "le roi des aulnes" から選んだもので、そのサブタイトルからもお分りの通り、上で長々とまとめたミシェル・トゥルニエの 『魔王』 を基にしている。
撮影はサンクトペテルブルク中心部から南東に24km離れた郊外の避暑地、ツァールスコエ・セロー (Царское Село, Tsarskoye Selo) にあるエカテリーナ宮殿 (Екатерининский дворец, Catherine Palace) ―― 第2代ロシア皇帝エカテリーナ1世 (Екатерина I Алексеевна, Catherine I of Russia) が1717年に作らせた離宮を、ロマノフ朝第6代のロシア皇帝となった娘のエリザヴェータ・ペトロヴナ (Елизавета Петровна, Elizabeth of Russia) がロココ調建築に立て替えさせて今の宮殿となった ―― を舞台に、サンクトペレルブルクのバレエやスポーツを教えている特別な学校に通う子供たちやモデル事務所に所属している子供たちの中から11歳くらいの子供たちを集めて行われた。
トゥルニエの 『魔王』 で主人公のアベル・ティフォージュが鳥のように囀る甘い香りを発する真裸の少女たちの集団がいる一室を偶然覗き見る場面で、ヒトラーの誕生日に供物として差し出される十歳を迎えた五十万の少女と五十万の少年のことを知ることになるのだが、そのティフォージュが覗き見た状況と戦慄すべきヒトラーへの 「供物」 としての子供たちのことと 「鬼があなたの子供をさらって」 しまうから気をつけろという、まるで 「青髭」 伝承を思わせる存在となってしまったティフォージュのことが AES+F GROUP のこのプロジェクトでは渾然一体となり、一連のイメージで示されていて、我々は 「供物」 として集められた少年少女として、「供物」 としての少年少女を集めるティフォージュとしてこのシリーズを見ることになる。
ネットをうろついている時にこのプロジェクトに出合い、黄金に輝く豪奢な広間に子供がウジャウジャいる、ただそれだけのことなのにとても異様な雰囲気を感じ、たじろいでしまったのは、無意識でそういったものを感じ取ったからなのかもしれない。


"The King of the Forest" の第二弾は "More Than Paradise" と名付けられ、2002年にエジプトのカイロで同い年の子供百人を集めて行われ、2003年にはニューヨークのド真ん中に大勢の子供を集めて "King of the Forest: New York (KFNY)" が撮影された。


どうもうまくまとめきれなかったが、そのうち時間を見つけて改めてまとめ直したい。

AES & AES+F GROUP
galerie sollertis

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